大天井ヒュッテ/大天井岳周辺最新情報
『山小屋便り』 平成18年 7月20日掲載

今日(18日)も数日間続いている雨模様なんです。この雨の影響で中房温泉への県道
と上高地への車道は昨日から通行止め、飛騨側の新穂高への登山道も増水のため濁流
となり通行禁止。夏山シーズンの始まりを告げるこの「海の日」の入った3連休は登
山者にとっても山小屋にとっても散々な連休となってしまいました。
この雨の被害はこれに止まらず各地で土砂崩れや浸水などの被害も出ていて、梅雨の
末期の大雨は良くある事なのですが今年のは特別悪玉前線ですね。

                 北鎌尾根の救出劇

今朝、早朝。バリバリバリ・・・っとヒュッテに近づくエンジン音。ビックリして外
に飛び出してみるとヘリコプターがヒュッテの庭に軟着陸、
実は、連休初日にヒュッテに宿泊して北鎌尾根に向かった2名の登山者。この登山者
の救助ヘリだったのです。再度飛び立ったヘリは数分後には二人を救助して帰ってき
て機材を積み込みすぐに大町方面へと飛び立ち無事に救出する事が出来ました。なん
とその後ヒュッテの周りも昨日までと同じようにガスと雨の世界に舞い戻るのです
が、この5時から6時半の約1時間半のガスの切れ間をぬって救出劇が行われたわけ
です。その前でもその後でも決してヘリが自由に飛べる気象条件ではなかったので
す。もちろんその時間帯もガスが完全に消えていたわけでもなく雨も止んでいた訳で
もないのですから、このヘリのパイロットと救出劇を行った2名の勇敢な隊員の活躍
に拍手を送りたいと思います。あえて言わせて頂きますが「東邦航空」という優秀な
スタッフとパイロットの成せる技です。

今後の事を思い、この遭難の状況と問題点を考えてみようと思います。
彼らが北鎌尾根に向かった16日の早朝は梅雨前線の影響でその日も小雨とはいいな
がら雨は降っており予報でも回復状況には至らず、梅雨前線は活発化とのことでし
た。ヒュッテに宿泊された半数以上が当初の予定を変更し北鎌を東鎌に変えたり、下
山を選択したりと、それぞれに行動を起こしていました。
まず一つの要因は、二人が出発する時「北鎌、本当に行くんですか?」と言ってし
まった自分に原因があります。本来なら無理してでも止めるべき状況であったはず
で、只、彼らはちょっと知られた山岳会に所属し県連の理事までしていると聞いてい
たので私ごときがおこまがしく口を挟むのは・・・と躊躇してしまった事が悔やまれ
ます。
二つ目の要因は、彼らの装備。ヘルメットは持っているもののあまりにも小さな軽そ
うなザック。そして、ピッケルやバイルの所持はなし、前回の情報のように貧乏沢と
北鎌沢には雪渓が例年以上に残っている事実からして、これはありえないですね、あ
まりにも気軽な装備であった。多分、ビバークにも必要不可欠な装備や食料も足りて
いないのでは?そうでなければ1ビバークしてでも山頂に行かれたはずである。
3つ目の要因は、自己管理というか自己体力というのか、北鎌尾根を登りきる体力と
精神力のなさ。体調が万全ではなかったかも知れないが、雪渓を登って体力を使い果
たし「独標下にて動けず食料もない」はあまりにもひどい。

詳しい事は、本人達でなくては解からないけれど、以上3点が大きなミスと考えられ
ます。
とはいえ無事にヘリにて救出できて何より、私もホッと胸を撫で下ろしたところです。

今回のように、17日午後1時半頃救助要請を受け(携帯電話)てから、救助出来た
18日午前6時まで悪天の中での一瞬の隙をついての救出劇、本当に運がよかったと
しか言いようがないですね。
携帯は随分広範囲に繋がるようになったとはいえ、沢沿いや標高の低い場所ではまだ
まだ電波は届かず、稜線上でも全てカバーされているわけでもなく、今回たまたま電
波の届く場所に居たのが幸いした訳です。
それと何度も申し上げますが、今朝の一瞬の幸運の1時間半があって始めて無事生還
出来た訳で、この機会を逃さなかった救助の専門家達の力のお陰な訳で、これが一つ
でも欠けていたらと思うと本当にゾッとします。

今シーズンも、沢山の方が北鎌尾根にチャレンジしにヒュッテに来訪されると思われ
ますが、もう一度自身に置き換えて万全の体制を整えて北鎌尾根に挑んで欲しいと思
います。
私も反省の中から、自分の判断でちょっとヤバイと感じた時には遠慮せず止める事に
しますので、その時にはご一考下さい。
大天井ヒュッテ 小池

今日も雨。ヒュッテの玄関前のベンチサイト兼へリポート