8月17日、教育懇談会において、(株)コミュニケーションズ・アイ代表取締役社長・長野県教育委員会委員の伊藤かおる先生のお話を伺いました。 この講演会の二日前、教え子の成人式で、派遣切りに遭って困っている子・有名私立大学法学部に進みながらも就職の不安・薬物の不安を語る子に接した私は、采来を考えると不安になる子どもたち」という演題に、興味を惹かれました。 伊藤先生は、精神保健福祉士ほか多くの資格をもっておられ、多様な人を支援された事例を豊富に用いて、わかりやすく話してくださいました。 はじめに、県内の社会状況を概観し、 @長野県の製造業の特性を考えると、あま り明るい展望は望めない感がある。 A40歳で派遣切りに遭い、住居はおろか家 財道具すらない人もいる。 といった社会の厳しさ・親世代にとっての苦しさをあげ、子どもが不安になるのも当然と分析されました。 事実、高校生対象のあるアンケートで、47%の子どもが「進路について考えると自分がどうなってしまうか不安。」と答え、進路に関わる保護者の言葉に対しても、 保護者「好きなことをしろ。」 →子「好きなことは何もない・混沌としてい るので焦る。 保護者「自分でよく考えろ。」 →子「考えても分からない・無責任だ。」 保護者「大学ぐらい出ろ。資格をとれ。」 →子大学を卒業後、どうなるの?資格だっ て思ったように取れない。」 と感じると答えたそうです。 大学も多様化し、学部学科名からは内容が分からないことも多く、選択が難しい。社会の変化が激しく、資格も一つでは通用しない状況では、子どもたちも迷い、不安になるはずです。それに対し、 「社会を『生きる力』は、『自分の前に現れる問題を解決していく力』へと変質してきている。明確にビジョンをも つことができにくい時代であるが、親 は、子どもが先に進むために、寄り添い一緒に考えることのできる大大にな ることが必要だ。」 と先生はおっしやいました。伊藤先生と娘さんとの会話を紹介して下さいました。 娘さん・・・おもちゃやさんになりたいの。 先生・・・作りたいの?売りたいの?作り手な らトミーやバンダイ。売り手ならトイ ザラスがあるよ。 しばらく日をおいて、 娘さん・・・子どもに関わる仕事がいいな。 先生・・・じやあ、教師・保育士などがあるよ。 また日をおいて、 娘さん・・・辛い子どもに寄り添いたいの。 先生・・・じゃあ、福祉の仕事も考える?そし て大学で福祉を学んだ娘さん・・・。 娘さんに対する先生の口調は、穏やかながらも力強く勇気が湧いてくるものでした。親として大人として、子どもの声をしっかりと聞き取り、語りかけるなかで、子どもの真の思いを引き出し、子ども自身に方向を見出させていました。まさに「生きる力」を仲ばす親の姿でした。大人が、温かい心と広い知識をもって子どもに寄り添い共に歩むことにより、子どもは、不安を軽減して自分の問題を解 決して我が道を進むことができます。 |
思春期が前倒しになり、しかも長くなっている今、相手を大切にできる心とそれを伝える言葉や表情を磨くとともに、社会に対する視野を広め、より多くの情報を集め、与えることのできる大人でありたいと思いました。 また、不登校・会社への不適応の例をあげ、困っている人が元気を取り戻すための支援の在り方として、人によりそう(人の全体を観て聴く)ことの大切さをお話しいただき、解決志向型のアプローチを紹介していただきました。それは、 @原因の究明から離れる。 A解決の焦点を合わせ続ける。 Bできている・うまくいっているところに焦点 を合わせる。例外は既に存在している解 決策として大事にする。 C「できる感」を高める。 Dできるレベルにまで行動を小さくする。 です。 周囲がこうした関わりをすることで、人は力を回復して自ら問題を解決していくことができると確信できました。誰に対しても大切なアプローチだと思います。 日常の何気ない雑用を面倒くさがらずに片付けていくことも、前頭葉の基礎体力を鍛え、辛いことに対する「耐性」を高め、人を元気にするそうです。私自身、ちょっとしたことを片付けたことで爽やかな気分になり、次の仕事への意欲が湧いた経験があります。何気ないながらも大切にしたい点です。 また、 「人は、他から必要とされた時に幸せを感じ、大きな力を発揮する存在だから、人の役に立つことや人を幸せにするこ とに喜びを感じることのできる気持ち を醸成していくことが必要である。」と語られました。難しいけれど、自分の周りに幸せを見つける力、人のよさに気づき伝える力を身につけ、子どもたちに返していきたいと思いました。 今まさに社会に出ようとしている子どもたち、益々大変な社会を生き抜く子どもたちに対し、悩みに寄り添って、共に歩む大人でありたいと思います。 先生の鋭さと温かさ・パワーに触れ、力をいただきました。本当に有り難うございました。 |
松本市教育会報 平成21年10月20日 第268号より
教育懇談会
未来を切り拓く、心豊かな児童・生徒を育てるには
伊藤先生から学ばせていただいたこと
松本市立鎌田小学校 山内 三幸