南岳小屋・管理人の日本最高所のオンライン日記


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2001年8月1日(水)〜10日(金)

日付 今日の出来事
8/1 さて、先日金沢市の花火大会のことを書きましたが、それに関して数多くの情報が寄せられました。ありがとうございました。また去年のその日に一緒に見ていたお客さんからもメールをいただきうれしい限りです。それによると今年は7/28と8/4に開催らしいのですが、7/28の分は見えませんでした。 というか、それだけ遠望が利くのは年に数回で、その日にたまたま花火を見れたということの偶然のほうが奇跡的だったのかもしれません。その代わりというわけではありませんが、昨日は久々に見事な夕焼けとなり、(最新情報参照)この小屋の常連さんで毎年夏・秋の2回、2〜3泊して写真と撮っていく千葉県のみっちゃん(通称)も満足して帰られました。
8/2 大天井ヒュッテのホームページ http://www.mcci.or.jp/www/otensyo/index.htm でも日記を始めたそうです、ぜひ見てやってください。しかし憎いことにヤツラは長野県情報技術研究所という公的機関の試験協力を得、ADSL並みの高速通信が可能なシステムが導入され画像送信も思いのまま作業風景もふんだんに取り入れられています。 しかも通信料は無料だし、パソコン付だし。かたや南岳は普通の携帯電話を使った9600bpsの通信速度、しかも個人所有のパソコン利用。これでは太刀打ちが出来ません。だって昨日やつらの日記を見ようと重くて、重くて・・・。でもここにはヤツラには負けない穂高の大観があるからな、頑張らなくては!!
8/3 皆さんは「月夜の雲海」を見たことありますか?今日の未明・午前2時頃に目が覚めると蒲田川上空の雲海に浮かぶ笠ヶ岳がきれいに月光に浮かび上がってました。(私の寝てる部屋からは笠〜双六〜薬師が一望なのです) そして「月夜の雲海」といえば3年前の9月、中秋の名月の前日に見事な風景が展開されました。まわりの谷という谷は雲海で埋めつくされ 槍・穂の稜線部分と常念と大天井岳の山頂部だけがまさに海に浮かぶかのように突出し、それらの山と雲を満月に近い光量を持つ月が照らし出すのです。それはもう神々しいばかりの光景で今でもまぶたに焼き付いています。しかもその年は上高地群発地震の影響で訪れる登山者はほとんどなくその景観を私と井形優子嬢、そして南岳周辺の氷河地形研究家・青山君の3人で独占してしまったのです。 みなさんも山小屋に来たら酒飲んで飯食って寝るだけじゃなくて、せっかくの3000mでの夜なんですから好奇心持っていろいろ見てみてください。   
8/4 ここ数日、大キレットで小さなトラブルが頻発しています。海の日の転落死亡事故はすでに書きましたが、そういう重大事故ではなく、午後遅い時間からの行動による夜間の行動不能や人為落石による頭部裂傷、長谷川ピーク付近で発見された持ち主不明のザックなど。遭難事故として扱うほどではないトラブルが発生しています。7/9に紹介した遭対協隊員によるパトロールの他、7/28には長野県警が涸沢に常駐を始め、有事の際の救助体制は整っていますがともかくまずは事故を起こさないことが肝要ですから皆さんも登山の際にはくれぐれも気をつけて行動してください。
8/5 昨日・今日の話ですが、宿泊者でないただの通過の登山者が小屋内のトイレを無断で使用するというとんでもない事件が頻発しています。この小屋に来られたことがある方ならわかると思うのですが、小屋のすぐ近くに外トイレがあるのにですよ!しかもなんの断わりもなしに靴を脱いでズカズカと小屋の中に入ってくる。さて、この周辺に外来用のトイレが小屋内にある所があるかと考えたらそんなところはどこにもないし、やっぱりその人の常識を疑うしかないよな。 それに輪をかけるように昨日のW大ハイキングクラブはテント泊で、テントの前にトイレがあるというのに夜中にズカズカと小屋のトイレを使ってたかと思えば、翌朝には焼却炉内(もちろんロープでキチンと仕切っています)に自分達のゴミをブチ込んでいるのです。これには普段は温厚な俺もブチ切れたね。「これ捨てたのお前らか!昨日は小屋のトイレを勝手に使うし、お前らホンマに最悪やの!!」と。 皆さん、山には山のマナーと常識というものがあります。訪れる側と受け入れる側、両者が気持ちよくできるようにご協力をお願いします。
8/6 このところ関東や北日本はだいぶん涼しいらしいですが、南岳もめっきり秋らしくなりました。昨日・今日の最低気温は6度台ですし、雲もすっかり秋の空という感じです。小屋前のお花畑にもミヤマアキノキリンソウが咲き、トウヤクリンドウがつぼみを膨らませてきました。これらは山の秋の花ですね。 まだお盆前というのにこのまま秋に突入でしょうか・・・。下界の人は過ごしやすくなっていいかもしれませんが、山にいるものは「夏よもう一度・・・」ってなところです。
8/7 昨夜の7時半頃のことです。あらかた仕事を終え、さて日記でも書こうかという時に3名の登山者が到着しました、うち一人は小学校低学年です。なんとこれからまだ新穂高まで下山すると言うのです。豊橋から車で新穂高まで来て、新穂〜槍〜南岳〜槍平〜新穂を一日で行く計画だそうです、低学年を連れて。それがどこでかは知りませんが道に迷って南岳に着いたのが夜7時半。なにやら明日の8時には絶対に出勤しなければならないのでこれから下りると言うのです、子供を連れて。もちろん小屋の中に入ってきたのも、相談とかそういうわけじゃなくてバッジを買うためだけに。どうやらすでに正常な判断が出来ないようです、子供を連れてるのに。結局下りて行きました。 私には自殺志願者としか思えなかったね、勝手にしろよって感じです。誤解のないように言っておきますが、山小屋は山行の相談には乗れますが、個人の行動を規制する権限はありませんから。 で、今朝になって槍平から「6時半に小屋(槍平)に着いた。途中でビバークしていたらしい」と電話がありました。言わんこっちゃないってとこでしょうか。その親が死のうが怪我をしようが勝手ですがかわいそうなのはその子供です。きっとその子は二度と山には行きたくないって言うだろうね。ま、無事でなによりです。もちろん今日は欠勤でしょう。
8/8 ここ数日、また遭難事故が頻発しているようです。確認しているだけでも昨日は大天井岳付近で、今日は大キレット(飛騨泣き付近)で、その他にも何件かあるようです。と、いうのも一昨日から上高地を中心とした山小屋でヘリコプターによる荷上げを行っているのですが、頻繁に「レスキューのため荷上げ作業一時中止」との連絡がはいるものでして・・・。上高地一帯の山小屋は荷上げに「東邦航空」というヘリ会社を利用しています。山岳雑誌の遭難関連の特集などで目にしたことも多いかと思いますが、ヘリレスキューにおいては国内屈指の腕前のパイロットや救助担当者がいる会社です。使用する機体自体も各県警や防災ヘリなどと比べて小型で機動性に優れ、急な岩場での活動などに向いています。 基本的に遭難事故発生の一報が警察等の機関に入った場合は警察や防災ヘリによる出動となるのですが、それらのヘリでは救助困難な地形や気象条件の場合や一刻を争う緊急事態で近くに民間ヘリが駐機している場合にはそちらに出動要請が出ることがあります。さて気になるお値段ですが、状況により大きく変ります。例えば現場に他の救助隊員がいて、あとはヘリでピックアップするだけというのならそんなに時間はかからないので料金もそんなにかかりませんが、歩いては近づけないような現場にヘリで隊員を送り込んで、搬送準備の後ヘリで吊り上げ病院等へ搬送、その後に隊員をヘリで回収となると相当な時間を要するのでそれなりのお値段となりますね。基本的に時間課金制と思ってもらえればいいでしょう。ただし、ヘリが松本空港に駐機している場合はその往復の時間、上高地などで荷上げ作業中の場合は荷上げが遅れることによる補償料なども請求されます。ま、ざっと安くて30万、 高い場合は100万オーバーといったとこでしょうか。でも最近は遭難現場で「民間は金がかかるから警察のヘリを呼べ!」などと発言する元気のいい遭難者も多いそうです。それを決めるの助けられる側じゃなくて助ける側なんだけどねえ・・・。そういう格差が出るのなら県警ヘリも有料にすればいいのと思うのですが、そうなると命をかけて火に飛び込んでいく消防隊員が無料ってのもおかしな話しですよね、むつかしいところです。
8/9 おととい・今日と雨の一日となっています。従業員の間では「本当に夏はもう終わりなのか!?」という話題が登るほどです。しかし、山の雨ってのはお客さんもイヤでしょうが、我々もイヤなもんです。別にお客さんのいないヒマな時期の雨は全然かまわないんですよ、身体を休めることができるし、風が吹けば風力発電フル稼働で一日TVを見てられるし。しかし最盛期中の雨はやはり困ったもんです。今日の場合なんかは、昨日はいい天気だったのに朝起きたら風雨強しですから、もうお客さんはみんなドヨヨ〜ンンとしてるし、他の小屋から来るお客さんはビショビショになって震えてるし。特にここは3000mの稜線上、日本有数の気象条件が厳しい地域ですからひとたび天候が悪化すれば里での嵐なみの風と視界を全て奪う濃霧、それに低温。我々は慣れてはいるけども、お客さんにとってはきっと地獄に突き落とされたような気分なんでしょうね。せっかくこんな遠くまでわざわざ時間と金と体力を使ってきたというのに 、気の毒で気の毒で仕方がないのですが、こればかりはどうすることもできません。せいぜい出来ることはYahoo−weathaerで天気図を出してプリントアウトして貼るくらい。あとは「そのうちに良くはなるでしょう」となんともあいまいな答えをすることぐらい。そういえば先日は「この雨はいつ止むのか?」という客に「さあ、どうでしょう?そのうちによくなるでしょう」と答えたら「なんだそんなこともわからないのか」と仰る方もいらっしゃいました。きっとお客さんも山小屋のせいだとは微塵も思ってはないのでしょうが、「おい、何とかしろよ」という視線を感じてしまうのです。どんなものなんでしょう、登山者の感覚というものは?
8/10 南岳小屋ではお泊りのお客さんに1本づつペットボトルのミネラルウォーターを飲料用としてお渡ししています。これは私がこの小屋の担当となった4年前から始めた施策でありまして、天水に100%頼ってる小屋として水質の問題と節水のために始めたものであります。実際、屋根から水を取っているのでタンク内には虫が浮かんでいたりしますし(もちろん濾過・殺菌はしています)、泊まりの人だからといって蛇口から無限に使われていたのでは限りある水では足りなってしまいます。そういうことで始めたこの方法がけっこうお客さんにはウケて、「まあぁウレシイ!!」などと喜んでいただいています。ただ、たまには途中の中岳の雪渓の水場でたっぷりと水を補給してきた人などは「せっかくだけど、いいや」と辞退する人もいます。 ただ、今日のあるお客さんは「水はたっぷりあるからそれはいらない、料金をまけろ、ビールと変えろ」と一度断わっても何度も言ってこられました。そんなことをいわれても水とビールじゃ原価が違うし、そもそもこちらの好意として始めたものなのに・・・って感じです。それじゃあ、20%増量の洗剤を買って、「そんなには必要ないから2割分まけろ」・ネスカフェのコーヒーにギブアウェイでブライトの小瓶が付いてるのを「俺はブラックでしか飲まないから100円まけろ」とスーパーのレジで言う人がいるのかよう!? などとは言いませんでした、私も大人ですから。 わざわざヘリで荷上げした水なんだからありがたく頂いて欲しいなあと、残念に思っただけです・・・


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