氷 河 公 園 コ ー ス 
(槍沢ロッヂ→天狗池→南岳)
(所要:登り4時間半/下り3時間)

氷河公園コース イラストマップ⇒

標高1820mの槍沢ロッヂを出発。
 (←)
まずはキャンプ場のあるババ平を目指す。
 (→)
特に朝一番にロッヂから登る場合は結構
寝起きの身体に堪えます。
ゆっくりと体調を確認しながら登りましょう。
ババ平からはやや平坦な道で大曲りを目指します。
ここまでで槍沢ロッヂから約1時間強。
大曲りまで来ると景色は一変して、眼前には大喰岳や中岳などの
3000m峰が残雪をまとった姿で迎えてくれる、
本当に眺めの良いところです。
また紅葉シーズンにここから見上げる槍沢の紅葉も壮観です。
ここから登りが急になるので荷物を下ろしてゆっくり休みましょう。
大曲りからジグザグに斜面を登ること一時間弱で天狗原分岐に
到着です。
草の茂みの中に槍沢ロッヂの従業員が作ってくれたお手製の
道標が迎えてくれます。
あまり目立たないので見落とさないようにしてください。
ただ、近日中にここに立派な道標が設置されるそうです。
分岐からは左手のほうへ槍ヶ岳を背後にして斜面を緩やかにトラバースしていきます。(←)
そしてここは言わずと知れた紅葉の名所。(→)
秋には見事な紅葉風景が展開されます。
そしてここからがこのコースのハイライト。巨岩が積み重なる岩場を越えると天狗池に到着。(←) なお、こんな風に池がきちんと見られるのは例年だとお盆休み以降です。
7月下旬〜8月上旬だとまだ雪に覆われているので知らずに行ってがっかりしないでください。
天狗池から先はカール(氷河圏谷)やモレーン(氷河堆積堤)などの氷河地形が連続するところ。天狗池から2段上がったモレーンの先には秋まで残る広大な雪渓があり、私は個人的にここを野球場と呼んでいます。(→)
まさにそんな広々とした雪原が山の中に突如として現われます。
その野球場からもう一登りするといよいよ「横尾尾根のコル」(標高2700m)に到着。
ここまで来ると今までは見えなかった穂高連峰が目の前に現われます。特に北穂高岳は異様な姿で聳え立ち、北穂の小屋が「なんであんな所に小屋があるの!?」とビックリすることでしょう。
また眼下には本谷右俣カールがこれまた異様な形をした屏風岩をバックにして伸びやかに広がっています。
秋にここから見下ろす本谷の紅葉も壮観です。
でも景色が素晴らしい!と喜んでばかりもいられません。
目を右側に向けると、これから登らなければならない横尾尾根の
岩尾根が覆いかぶさるように迫ってきます。
ここから稜線までは標高差約300m、ゆっくり登って1時間程度です。
コル(鞍部という意味)からしばらくは巨岩がゴロゴロと積み重なった道を登ります。中にはこんな数メートルもあるような巨大な岩の間を通っていったりします。どこが道なのだか分からないようなところですが、目印のペンキマークを忠実にたどっていってください。
なんでこんな地形ができたかというと5万年前の氷河時代に尾根を挟んだ天狗原カールと本谷カールの氷河が巨大に発達して、両側の氷河がくっついてしまったのです。だから普通であれば東鎌や北鎌尾根のような尖がった稜線が続くはずのこの場所が両側からの氷河に押しつぶされて岩がグチャグチャに積み重なったということらしいです。
ちょっとむつかしいお話しでしたが、そんな氷河時代の置き土産の真っ只中を自分はいるんだと思って歩いてみてください。
そんな氷河時代の置き土産の巨岩の中をしばらく登っていくと、
今度は本当にやせた岩尾根の道へと変わっていきます。
1998年の地震で大きな被害を受けたところですが、今年の6月にハシゴが新設されたり、不安定な岩を除去するなどしてずいぶんと歩きやすくなりました。
とはいえ、長い道のりを歩いてきた最後の最後にこの急な登りはちょっと辛いかもしれません。
ハシゴの次は鎖場となります。
でもここまで来ればこの苦しい登りもあとわずか。
頭上には稜線が間近に見えてきます。
鎖場が終わってやや傾斜のゆるい坂をゆっくりと登りきるとようやく槍ヶ岳〜南岳の従走路(2960m)に到着です。
これまでは見えなかった笠ヶ岳や黒部五郎岳などの飛騨地方の山々が歓迎してくれることでしょう。
ここから左へ行けば南岳小屋まで緩やかなアップダウンの30分。
右へ向かうと槍岳山荘まで約2時間のコースです。
中岳・大喰岳・槍の肩への登りと意外と登り下りの激しい道です。
体力の限界が訪れている時や天候の悪い時は無理せず南岳へと向かいましょう。
特に悪天時にこの稜線を槍まで歩くのは大変に辛いですから。

編集後記

何年も前の話しですが…
ある若い女性の二人組みがこのコースから南岳へと登ってきました。
彼女達は言いました。
「こんなひどい道!もう死ぬかと思った。こんなの初心者登るところじゃないわよ!!」と
私に怒ってくるのです。
そのときにどう答えたかは記憶にありませんが、心の中ではこう思ってました。
「そうだよ、あそこは初心者の行く道じゃないよ。山のせいにするんじゃなくてコースの勉強もせずに登ってきたあんたたちが悪いんだよ。山が人間に合わせるんじゃなくて人間が山に合わせるんだよ」と。
聞くと彼女達は登山というもの自体も初めてだったそうです。

そう、たしかにこのコースは初心者向きではありません。
急な岩稜の続く、ある程度の山登りの経験がある人向けのコースです。
考えてみたら槍ヶ岳に登ろうという人ならば「ある程度の経験」がある人のはずなんだから、
槍に登ろうという人ならここは特に問題のないところのはずです。

この道を利用したいという電話やメールでの問い合わせにも、
「ある程度の登山経験があって、槍の穂先へ登れるような人であれば問題ありません。
 ところどころ急な岩場もありますが、慎重に歩いていただければ大丈夫です。
  これまでに大きな事故の報告例もないですから」と答えています。


付け加えて言うならば槍や穂高には何度か登っていて「私は槍が大好き!」
なんていう人がもっとこの山のことを知りたいという場合にお薦めのコースですね。
実際に地形や展望は申し分ありません。
ただ単純に槍沢や飛騨沢を経由して槍ヶ岳へ登るのよりも何倍も興味深いコースです。
でも悲しいかな、ここのコースは槍ヶ岳からの帰りに下りとして利用する人が多いようなのです。
下りに使うとどうしても早足で駆け抜けてしまうことになりますよね。
やはりこの道は登りに使って、自然のいろんなものを感じ取りながらゆっくりと歩いてもらいたいのです。
槍沢や飛騨沢も素晴らしいところですが、やっぱり展望という点においてはこのコースにはかなわないでしょう。
ただひたすら足元の岩を見ながら沢筋を登りつめるよりも、道は険しくて辛いけども右を見れば槍ヶ岳。
左を見れば穂高連峰というこの道を疲れたら足を止めてみてゆっくりと登ってみませんか?