槍ヶ岳〜南岳コース
(所要:2時間半〜3時間)
さて、槍ヶ岳山荘を出発です。
ここは標高3060m、北アルプスで2番目に高いところにある山小屋です。
なお、混雑時は山荘の前から槍の穂先まで往復2時間から3時間もかかることもあります。
昼前後に槍岳山荘に到着して、そのあと南岳に向かう場合はそのあたりにも注意が必要です。
槍岳山荘を出発してまず大喰岳を目指します。
キャンプ場の横を通り過ぎて、ジグザク道を飛騨乗越まで下ります。
ここは標高が3020m、日本最高所の峠とも言われています。
この飛騨乗越から大喰岳への登りがこのコース中で一番辛い登りです。たいした標高差ではないのですが、寝起きや長時間の休憩のあとで身体も慣れていない上に空気も薄いし…
ゆっくりと一歩ずつ登りましょう。
大喰岳の山頂は縦走路からやや離れた位置にあるので、確実に山頂を踏みたい人はガスの濃い時など注意しましょう。
目立たない山ですが、これでも日本で10位の高峰です。(3101m)
大喰岳をあとに中岳を目指します。
この大喰岳から中岳、そして南岳の間は雷鳥がたくさん生息するところです。
天気のいい時はなかなか姿を見せてくれませんが、まわりにガスが漂いはじめるとエサを探しに母鳥とヒナ達が行進を始めます。ガスってしまって山が見えないとがっかりせずに、周りに目を配りながら歩いて見ましょう。
大喰岳を下って中岳との鞍部に着くと、
中岳の山頂が覆いかぶさるようにそびえます。
でもここの登りは見た目ほどではありません。まもなく2段のハシゴ場に到着し、(←)
これを登りきるとあっと言う間に山頂到着です。
山頂からは大喰岳の万年雪を従えた槍ヶ岳が印象的に天を差しています。
ここからがこのコースのハイライト。
中岳から南岳へと続くのびやかな3000mの稜線の道、そして穂高連峰へと続く山並み…
「これが日本アルプスだ、文句あるか!?」という感じの風景です。
中岳からの下りは大きな岩が積み重なる道を行きます。これらの岩は周氷河地形の典型で、氷河期の強い冷え込みで岩の隙間に入った水分が凍って膨張して岩をパカッと割ってしまったものなのです。
ちなみに現在の冬の冷え込み程度だと氷の圧力だけでは人間の頭の大きさ程度にしか割れないそうです。(それでも真冬にはこのあたりはマイナス30度になるんですけどね)
ちょっとむつかしい話しですが、こんな話しも覚えておくと山歩きもたのしくなります。
画像準備中
なお、中岳山頂にはこんな看板があります。
ちょっと古い地図には山頂から左(東方面)へと道が続いていますが、その道は現在通行止めです。(←)
98年の上高地群発地震の際に山頂の直下が大きく崩れてしまったために道を南方面へ延びる尾根筋に付け替えました。
そして中岳を下りきると槍〜穂高の縦走路中で唯一の水場があります。(→)
中岳の残雪が消えるまでの8月中下旬まではここで水を取ることができます。
南岳でキャンプする人はここでしっかりと水を補給しておいてください。
 (南岳小屋の水は有料です)
でもなんでこの雪解け水は地中へと染みこんでいかないんだろう?
などと疑問に思うのは相当の地理オタクですね。
実はこの雪の下の地中には夏でも凍ったままの氷・いわゆる永久凍土があるのです。ツンドラとも呼ばれるものです。だから雪の解けた水が地中に染みこむことができずに山の裾から流れ出しているのです。
 (注:実際には雪が完全に解けたあと、9月頃には地中の氷も
    解けてしまうので厳密には永久凍土というわけではないのですが、
    10月に入れば再び凍結を始めます。ほんの1ヶ月だけ永久ではない
    のですが、こう説明するとちょっとロマンを感じるでしょ)
水場からは穏やかなアップダウンの稜線歩きが続きます。
途中の平べったい石がたくさんあるピーク(2986m地点)から振り返るとこれまで歩いた山並みを確認できます。(←)
このあたりは基本的に穏やかな道ですが、一箇所だけ岩場をトラバースするところがあります。(→) 特にむつかしいというわけではないのですが、昨年はここで滑落して重傷という事故もありました。ここの通過だけは注意が必要です。
岩場を過ぎるとすぐに道標の立つ天狗原の分岐点です。
ここから南岳へはゆっくり登って20分。
3032.7mの山頂に立つと穂高の荒々しい岩壁が目に飛び込んできます。
ここからの風景は自分で言うのもなんですが、南岳小屋がアクセントとなって、とても絵になる風景だと思います。
さて、小屋はすぐそこです。
でもあまり急いで下りないように。
南岳から小屋までの斜面は砂地なので急ぐとズルッと滑ります。
天気が良ければ従業員はいつも厨房の窓から降りてくる人を見ているので「あ、あの人こけた!」と笑われてしまいますよ。
 (こけるといって尻餅をつく程度なので笑ってられる穏やかな斜面です)

  編集後記
槍から南岳へと向かうこの稜線ルートは文句なしに最高です。
「雲上の楽園ルート」とはまさにこのことだと言えるでしょう。
特に中岳から南岳の間は、「こんな穏やかな山が標高3000mにあっていいの?」という感じです。
私にとっては通い慣れた道ですが、なんど歩いても幸せを感じます。

ところでこの道は槍から南岳へ向かうのと、南岳から槍へと向かうのとどっちがいいんだろう?
いつもそのことを考えるんだけどいまだに結論は出ていません。
でも、眺めに関しては南岳山頂がこのルート上では総合点でトップでしょうね。
一つだけ言えることは、できればお天気のいい午前中に歩いてもらいたいということです。
さすがに夏は、どんなに朝の天気が良くても午後になればほぼ100%ガスが湧いてきます。
この雄大な風景を楽しみながら歩くにはやっぱり朝一番がお薦めですね。
でもガスっていて周りの山が見えないからといって悲観することもありません。
そんな時だからこそ見えてくる風景もあります。
晴れていて遠くばかり眺めていると見落としがちな足元の高山植物も自然と目に飛び込んできますし、ガスの出た午後ならかなり高い確率で雷鳥にも会えるでしょう。
そんな幸せ体感ルートへぜひどうぞ!

でもね、幸せだ!なんて言っていられるのはお天気の良い時だけの話しです。
ひとたび荒れれば、そこは標高3000mの吹きっさらし。
下界では台風並みと表現されるような強風(暴風)もここでは普通に吹きますから。
おそらく下界に住む人には想像もできない世界です。
そんな中を3時間も歩き続けるのはまさに地獄です。
くれぐれもも悪天時は無理な行動は控えてください。