8月22日(水)

天気(午前) 天気(午後) 最低気温 最高気温 雨量(前日18時〜当日18時)
濃霧 8.9℃ 10.3℃ 10mm

寒冷前線の南下で今日の南岳は荒れ模様。
雨はさほど降っていませんが、濃いガスと風速20m/s近い強い風。
 (上記写真は今日撮ったものではありません)

小屋でよく「風が強いけど大キレットへ行くの大丈夫でしょうか?」
と7〜8m/s程度の風でも聞かれることがあります。
そういう場合、「え、こんなのそよ風ですよ。ここでは」と軽口でお答えしております。

宇宙から見れば日本有数の突起物である槍穂高連峰。
真夏の太平洋高気圧にすっぽりと覆われたとき以外は風が強いのが当たり前。
下界では「台風並み」と称される今日のような20m/sを越す風が吹いて、
やっと「強風」と呼べるのであります。

その強風、以前はただのやっかいものでしかありませんでしたが、
今では南岳の大切なエネルギー源です。

今日はこんな荒れた天気なので通る登山者もまばらです。
暇なものですからこの風力発電についてちょっと語ってみましょう。
 (興味のない方にはつまらないですから、読まなくてもいいですよ)



南岳小屋に風力発電機が導入されたのは1998年の8月下旬。
早くも10年が経過しようとしています。
そのシステム導入により小屋での生活は革命的に利便性が向上しましたが、
道のりはけっして平坦なものではありませんでした。
高価な割にはトラブルの多い風力発電機、現在使っている機器(上記、緑色の個体)は3代目ですが投入したお金はこれまでに200万円を越えています。
これだけの金額があれば化石燃料を燃やして発電したほうがよっぽど安価ですが、
地球温暖化の危機が現実に迫っている今、そういうことを言っている時代でもないでしょう。

南岳小屋は小さな小屋ゆえ、昼間は照明を点けなくても十分に明るいというアドバンテージがあったのでもともとそれほど電気を必要とする小屋ではありませんでした。
でも一昨年に導入した「おがくず式バイオトイレ」はけっこう電気を食う代物です。
そのためにバイオトイレ導入にあわせ、風力・太陽光発電・バッテリーシステムを一新しました。
その代金、トイレの設備費以外にも約300万円。
上でも書きましたが、これだけの金額をかけるなら一日中ディーゼル発電機を運転してたほうがよっぽど安価で安定した電力が得られるはずです。

でもこのシステムを導入したおかげで燃料を燃やして発電する時間は一日6時間程度(朝2時間・夜4時間)。それ以外の時間は自然エネルギーを使ってバイオトイレをはじめ小屋で使う電力をまかなっています。

その電力は昼間で約1000KW、夜間で500W。
電子レンジをずっとつけっぱなしにしているのと同じくらいの電力です。
また、5・6月の小屋明け作業時はこの自然エネルギーだけで生活していけるくらいです。

そのおかげで小屋で消費する燃料の量はドラム缶で約6本分。
周辺の山小屋の燃料(軽油)消費量では随一の少なさです。
よその大きな山小屋ではシーズンに100数十本使っている小屋もあると聞きます。
もちろん規模や開設期間も違えば、自然エネルギーを利用するには不利な立地の小屋もあるので一概に比較できるものではないことは承知しています。

でもこれからの時代はいかに自然に優しい運営をしていくか、これも重要な要素だと思います。

そして南岳では一日のエンジンの運転時間を10分でも20分でも少なくしようとバッテリーの電圧計とにらめっこしつつ、順調に回転を続ける風力発電機を心の中の笑顔で見上げている私がウロウロしてるはずです。

最後に、こんなすばらしい大人のおもちゃ(風力発電機のこと)を与えてくれた弊社の社長に感謝するとともにその先見性には脱帽しております。

あ、もう一点。
風力発電で問題になるのは騒音。
初代の発電機はそれはそれはうるさくて…、強風時はまるでチェンソーのような騒音でした。
でも現・3代目の発電機は静粛性が格段に向上しています。
それでも強風時の夜間は運転を停止しており、睡眠の妨げにならないように配慮しております。