こちらの文章は 「中日新聞松本ホームサービス」2000年11月9日号に掲載された 「松本の樹たち・樹木戸籍」を転載致しました。 かなりの長文ですが興味のある方は是非お読みください。 |
佇めばエトランゼ 街の中心を東西に流れる女鳥羽川の橋、かつての大手橋−現千歳ばしから北、 お城までの通りが「大名町」である。 大名町は、松本駅に降りたちこの街を訪れる旅人が、先ずめぐり会う旅情の地である。 突き当たりに古城を見る家はざまの道路には、伸び育ったシナノキとナナカマドが、 ビルの並ぶつめたい風景をよわらげ、山間の町のイメージを見事に演出している。 ここに「シナノキ」が植えられてから、二十五年程が経つ。(注、1973年植樹) 本来は山野に自生する落葉樹ながら、よく街中の悪環境にめげずに育ち、 見上げれば梢は空の雲に手をさしのべ、アルプスの風を招いてゆれる樹陰が路上を彩る。 −松本は冬が長いから、足もとに陽の差す落葉樹、それも松本らしい樹を− との山崎林治氏(植物学)のご指導があり、この樹を植えた町の人たちの先見性が、 今を支えている。 のびやかな冬の樹形美にはじまり、春から夏への新緑と甘い芳香の花の季節、 ヒワやレンジャクまで呼ぶ秋の木の実。四季を通じて道往く人をたのしませる。 江戸時代までこの通りは、一般町民の立ち入り禁止の場所だった。 上級武士の大名屋敷八軒ほどが、広い敷地を占めていた。 明治維新で開放されたが、一八八八年(明二一)の「極楽寺大火」で、 町の南部大半千五百戸を焼き、その後に一般市民の家々が立ちならぶようになったものである。 大名町のシナノキは、厳密にはオオバボダイジュだといわれる。 シナノキ・オオバボダイジュ・ボダイジュの同属三種は、一般に混同して呼ばれるが、 ボダイジュは中国原産である。「シナノキ」の語源は、アイヌ語の「シナ」からといわれ、 ”結ぶ””くくる”の意味がある。これは古くから樹皮を繊維として、 実用的に利用したためであろう。数年前にも県の森の物産展で、シナノキ製品を見たし、 木曽奈良井宿の資料館では、繊維を布に織っていた。東北では樹皮を「マダカワ」と呼び、 けら(みの)に使用したことが賢治の詩や童話に出ている。 建築や板などの材として使用する人たちの間では、シナノキを「アカシナ」、 オオバボダイジュを「アオシナ」といって区別しているそうである。 −泉に沿いて茂るボダイジュ・・・と歌うシューベルトの歌曲「冬の旅」は有名であるが 、 原詩の「リンデンバウム」も同属別種ながら、日本ではボダイジュと訳されて、 今も広く愛唱されている。 信濃国のシナも、「科(しな)の木」から名づけたといわれ、 古来科の木が多く自生していたことを物語っている。 −中略− 街路樹では、長野市中央通りのプラタナスが最古(一九二二)とのことだが、 松本では江戸時代すでに、萩町(善光寺街道)の通り両側に萩を植え、目隠しにした。 これは明治四十四年に出された、松本大古地図にも書き込まれている。 けれども、人々が街の景観や環境保全のために、緑化、殊に市内の緑化を大切に 考えるようになったのは戦後、それもつい近年のことである。 金髪の並木ほとばす街の月 ひさ |
<シナノキ>科の木・級の木 ・別名−アカシナ、マダ、マンダ ・別種−オオバボダイジュ、ボダイジュ ◇語源−アイヌ語の<結ぶ><くくる>から ・シナノキ、オオバボダイジュ、ボダイジュは 混同して呼ばれるがボダイジュのみ中国原産で、 インドボダイジュ(菩提樹)はクワ科である。 ◇特徴−シナノキ科、落葉高木、日本原産 ・古来から日本各地の山野に自生、 中部以北はオオバボダイジュが多い ・甘い芳香の花の花序には柄にヘラ状の色が 一個つくため、同種に<ヘラノキ>というのもある ◇現在、用途は主に街路樹、合板 樹皮は布、船のロープ、紙などに使われる |
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